Technology/2026年11月8日/1 min read

弁護士の生成AI利用と守秘義務: 東京弁護士会ガイドラインの5要件でツールを確認する(2026年)

弁護士が生成AIを使うときの守秘義務(弁護士法23条)の考え方と、東京弁護士会の適正利用ガイドライン(2025年3月27日施行)の選定要件を整理。ChatGPT、Claude、Copilot、Wysorの公開情報を要件ごとに比べます。

契約書の翻訳、書面の構成案、英文メールの下書きなど、弁護士業務で生成AIを使う場面は増えています。そのとき最初に問題になるのが守秘義務です。依頼者から預かった情報をAIに入力してよいのか、どのサービスなら入力できるのか。

この記事では、弁護士法23条の守秘義務を出発点に、東京弁護士会が公表している「弁護士業務における生成AIサービスの適正利用ガイドライン」の選定要件を整理し、主要なサービスの公開情報を要件ごとに並べます。どのサービスを使うかの判断は、各弁護士・各事務所が利用規約や契約内容を確認したうえで行うものです。この記事はその確認作業の手がかりとしてお使いください。


弁護士の守秘義務と生成AI

弁護士法23条

弁護士法23条は、弁護士(弁護士であった者を含む)は職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うと定めています。弁護士職務基本規程23条も、依頼者について職務上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らし、または利用してはならないとしています。

生成AIに依頼者の情報を入力することは、その情報を外部の事業者に送ることを意味します。問題は、送った先で情報がどう扱われるかです。学習に使われるのか、どれだけの期間保存されるのか、事業者の担当者が見ることはあるのか。これを確認しないまま入力することが、守秘義務の観点からのリスクになります。

日弁連の注意事項

日本弁護士連合会のAI戦略ワーキンググループは、2025年9月に「弁護士業務における生成AIの利活用等に関する注意事項」を会員専用サイトで公表しています。本文は一般には公開されていないため、会員の方は会員専用サイトで確認してください。


東京弁護士会ガイドラインの5つの選定要件

東京弁護士会は、弁護士業務改革委員会を中心に「弁護士業務における生成AIサービスの適正利用ガイドライン」をまとめ、2025年3月27日に施行しました。概要は会報LIBRA 2026年6月号(25〜27頁)で紹介されています。ガイドラインは遵守を義務付けるものではなく、綱紀・懲戒の直接の基準でもない推奨事項と位置付けられています。

ガイドラインは、信頼できる生成AIサービスを選ぶための基準を5つの要件に整理しています(ガイドライン2(1))。公表されている解説に基づくと、趣旨は次のとおりです。

要件趣旨
ア弁護士業務での利用が、サービスの利用規約等に違反しないこと
イ提供者が入出力情報を機械学習その他の用途に使用しないこと、または使用しない設定ができること
ウ提供者が正当な理由なく入出力情報にアクセスできないこと
エ暗号化や脆弱性対策など、厳格なセキュリティ対策が実施されていること
オ一定の保存期間の経過後に自動削除されること、または利用者が削除できること

東京弁護士会は、主要な生成AI事業者への照会も行っており、その結果もLIBRA 2026年6月号で扱われています。正確な文言は、ガイドライン本文と会報で確認してください。


主要サービスの公開情報を要件ごとに整理

次の表は、要件イ(学習)とオ(保存・削除)について、各社が公開している情報をまとめたものです(2026年11月時点)。要件ア・ウ・エは、利用規約、データ処理契約(DPA)、セキュリティ資料で個別に確認する項目です。

サービス要件イ: 学習への利用要件オ: 保存と削除
ChatGPT Plus(個人向け)初期設定では学習に使われる。「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにすると、以後の会話は学習に使われない会話は削除するまで履歴に残る。削除後30日以内に完全削除(法的・セキュリティ上の例外あり)。一時チャットは30日間保存後に削除
ChatGPT Business初期設定で学習に使われないワークスペースの設定とOpenAIの法人向け資料で確認
Claude Team初期設定で学習の対象外(法人向けプラン)Anthropicの法人向け資料で確認
Microsoft 365 Copilot Chat(職場アカウント)プロンプトと応答は基盤モデルの学習に使われない(エンタープライズデータ保護)プロンプトと応答は記録される。管理者がMicrosoft Purviewの保持ポリシーで期間を設定
Wysor入力は学習に使われないモデル提供事業者には保存されない(ゼロデータリテンション)

料金の目安は、ChatGPT BusinessとClaude Teamがいずれも標準シートで1ユーザーあたり月額25ドル(年払いで月額20ドル)です(2026年11月時点、各社の公開料金より)。

各サービスとも、プランや設定によって扱いが変わります。個人向けプランを業務で使う場合は、学習の設定を自分で確認する必要があります。設定手順は「ChatGPT・Gemini・Claudeに学習させない設定」にまとめています。


事務所で確認しておきたい5つのこと

  1. 利用規約とDPA: 業務利用が規約で認められているか。データ処理契約があるか。
  2. 学習の設定: 初期設定で学習に使われるか。オフにできるか。
  3. 保存期間: 学習をオフにした後も、何日間保存されるか。削除はいつ反映されるか。
  4. 事業者によるアクセス: 不正利用の監視などで、事業者の担当者が会話を見る場合があるか。
  5. 入力の範囲: どのサービスを使う場合でも、依頼者を特定できる情報の匿名化や、入力しない情報の線引きを事務所内で決めておく。

東京弁護士会の会報では、汎用の生成AIで判例などを調べると誤った情報が生成されるリスクが高いことも指摘されています。生成AIの出力は、必ず一次資料で確認してから使ってください。


Wysorでできること

Wysorは、EU内でホスティングされるマルチモデルのAIワークスペースです。国際案件や英文の書類を扱う弁護士の方が、翻訳、起案、海外法のリサーチ、手元の文書の確認、メール対応を一つの画面で行えるように作られています。

  • ゼロデータリテンション: Claude、GPT、Gemini、Grok、Mistral、Perplexity、オープンソースモデルの提供事業者に、入力が保存されません。
  • 学習への不使用: 入力が学習に使われることはありません。
  • EU内でホスティング: AWSのフランクフルトリージョン(ファイルはアイルランド)で運用しています。
  • DPA付き: データ処理契約が含まれます。
  • EU法・米国法・英国法のリサーチ: EUの法令とEU司法裁判所の判決、米国の連邦・州の判例と法令、英国の判決を、出典付きで検索できます。
  • 翻訳と起案: 英文契約書の翻訳、条項の比較、書面やメールの下書き。最終的な確認と判断は弁護士が行います。

料金は無料プランのほか、Plusが月額19.99ユーロ、Premiumが1ユーザーあたり月額29.99ユーロです。ツールの比較は「弁護士・法律事務所向けAIツール比較」で、国際案件での使い方は「弁護士向けWysor」でご覧いただけます。


まとめ

生成AIの利用で守秘義務を守るための出発点は、ツールごとに「学習に使われるか」「どこに、どれだけ残るか」「誰が見られるか」を確かめることです。東京弁護士会のガイドラインの5要件は、その確認に使える具体的な物差しになります。気になるサービスは、規約とDPAを読んだうえで、匿名化したサンプルで試してみてください。

※この記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の事案についての法的助言ではありません。